原子層強誘電材料のバルク光起電力発電を実証 ――ナノ発電実現へ新たな道を開拓――
東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の張益仁大学院生(研究当時)、長汐晃輔教授らの研究グループは、京都大学の松田一成教授、篠北啓介助教、物質・材料研究機構の谷口尚博士、渡邊賢司博士らとの共同研究により、2次元層状物質である硫化錫(SnS)において中心対称性を持たないSnSを成長させ、そのバルク光起電力効果による発電を実証しました。
バルク光起電力効果は、2種類の材料からなるpn接合型太陽電池と異なり、中心対称性を持たない極性結晶への光照射時に誘起されるシフト電流が起源であることが明らかにされてきましたが、ほとんどの材料において理論的に予測される発電量が低いことが課題でした。本研究では、シリコン太陽電池に匹敵する発電量が理論的に予測されていたSnSにおいて、面内分極の揃った中心対称性を持たない強誘電相を物理蒸着法により成長し、そのバルク光起電力効果による発電を初めて実証しました。また、分極ドメイン構造の解析から、分極ドメイン境界は180°回転の双晶関係を有していることを明らかにしました。分極を揃えることでさらなる発電特性の向上が期待できます。これらの成果は、高効率太陽電池や光検出器等への応用だけでなく、結晶の厚さがナノサイズでも発電が可能なことから、IoTセンサー用のナノ発電素子としての利用も期待されます。
本研究成果は、2023年5月6日に、科学雑誌「Advanced Materials」に掲載されました。